2012年4月アーカイブ

2012年4月17日

エスカレーター

「手こずってるのかい?困ってるように見えるけど。」


いつもの「彼」が話しかけてくる。

「ほんの少しね。」


ほんの小さな声で答えたつもりだったが、前を歩いていた赤ん坊を抱いた女が怪訝そうに白い眼で振り返った。

女の眼は文字通り白く、まるでミルク色のビー玉のように濁っていた。
抱かれた赤ん坊の眼も同じように濁っていた。

なのに不思議と視線だけは感じた。おかしなものだ。
彼らはとても疲れているようだった。
その疲労感は湿気みたいに薄く彼らの周りを覆っていた。

女が前に向き直ったので話を続けた。

「山に行ったんだけど適当な枝振りが見つからなかったのよ。

細かったり、高かくて手が届かなかったりね。

誰かが私みたいなのの為に手入れしちゃってるのかもね。」


「それは、いつも君の言う「センセイ」や「セイジカ」の連中が?」


「手入れは例えよ。本当は山の上まで登れなかったのよ。足が痛くてね。

だから山は諦めたのよ。」


「それじゃあ海の時と同じじゃないか。」


言い返す言葉が無かった。
溺れるのがあれほど辛いとは思わなかった。

「それでも努力はしたわ。頭まで浸かったのよ?12月の海に。」

「彼」は呆れたように溜め息をついた。



象が目一杯に鼻を上げて気持ち良さげに伸びをしていた。


床に倒れた老婆が笑っている。


羽を落としながら蝶は池に沈んでいった。




「それでどうするんだい?」


「飛び降りようと思ってね。」


「そうだね、それは良く解るよ。なにしろビルにきてるんだからね。

僕が聞いているのは何故エレベーターを使わないのか?と言うことだよ。」


「私なりの美学よ。あんまり簡単にフィナーレじゃあ重みってものが足りないでしょう?」


「もちろんだね君の言う通りだ。

しかし新しい問題も発生する。それなら階段を使うべきじゃあないのか?」


「馬鹿ね。しんどいじゃないの。」


「なるほど」


「彼」はとても満足したようだった。


「それじゃあこれで。

見送ってくれてありがとう。」


「ああ、気をつけて。

おかしなものだけどね。」


私は微笑んで振り返った。

いつもどうり「彼」はいなかった。

少し淋しい気もしたけど私は前を向いてエスカレーターを上がった。


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2012年4月15日

一瞬

雲の動きや、太陽の光。時には鳥の羽ばたきさえも。

捉らえてファインダーに閉じ込めれる時間は瞬きの間。

だいたいは摑みそこねますけどね。

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